東京地方裁判所 昭和46年(ワ)1430号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一 事故の発生、態様と責任
(二) <証拠>によれば、次の事実が認められる。
事故現場は、歩車道の区別のある車道幅員約7.2メートル、中央線の標示のある道路上であつて、交差点ではない。右道路は、乙車の側からみてゆるい右カーブとなつている。
甲車が右道路から進入しようとした場所は、公園脇の空地である。右空地は、右道路に面する幅が約7.7メートルで、右空地に面して歩道及び縁石は切り下げられ、歩車道境界のガードレールもなく、車両の進入が可能となつている。右空地は、その一部が舗装されているが、舗装部分と前記道路(歩道)との境界に三、四本の杭が存し、車両の通行を妨げる状況になつており、右空地の残部はその奥に存する木工所の工場、倉庫に出入りする車両が通行しているものの、その構造等からみて、道路といえる状態ではない。
甲車は、同所で右折して右空地に進入しようとしたものであるが、対向車線の車両が渋滞していたので、自車線で一旦停止したところ、中央線寄りを進行する対向車(タンクローリー)が停止して自車の進行を待つのを見て、右折を開始し、時速一〇〜一五キロメートル位で進行し、車首がわずかに中央線を越えた頃、甲車運転者は右停止車の左側をなお進行してくる乙車を発見し、急制動をかけたが及ばず、停止寸前の自車前部と乙車右側中央部、同車運転者(原告佐太郎)の右足とが衝突するに至つた。
乙車は、右道路中央線寄りは車両が渋滞しており、その左側に幅二メートル足らずの余地があつたため、この部分を進行したものであつて、併進車両にさえぎられて、衝突時まで甲車に気付かず、制動等避譲の措置をとつていない。
(乙車の速度については、これを明らかにすべき的確な証拠はないが、事故後の同車及び運転者の位置からみて、さほど高速であつたとはいえない。甲車運転者宮川忠は、右折開始時及び右折進行中、車両の安全確認につとめた旨証言しているが、前記タンクローリーの停車後なお低速で進行した点を除いては、対向車線に注意を払つた形跡はない。)
(三) 右事実に基づいて、甲乙両車の運転者の過失につき考える。
当時は、右道路に車両が輻輳していて、乙車とその対向車線左側を進行する車両との間では相互に見とおしが容易でなく、ことに、中央線寄りにタンクローリーが存する状態では見とおしが極めて困難な状態となつていたものといわなければならない。このような状態においても、乙車は、交差点でもない場所で対向車線を横切ろうとしたわけであるから、対向車線左端を直進する車両に危険を及ぼさないような速度、方法でのみ進行することができるものというべきである。この点からみて、甲車運転者宮川にその運行に関し過失のあつたことは否定できない。
一方、乙車運転者(原告佐太郎)においても、自車の右側を併進するタンクローリーが減速し、停車の態勢をとつたことを当然了知し得たのであつて、対向車線の状況が見とおせないのであるから、自車においても、危険回避のため、前方注視を厳にし、減速その他適宜の措置をとることが期待されるものである。
(四) 考えてみると、本件事故は不幸な出来事である。甲乙両車運転者の過失は、いずれもさほど大きいものとはいえない。事故に対する寄与度ないし過失割合を考えるならば、両車の優先関係を考慮し、甲車のそれがはるかに大きいといえよう。また、原告佐太郎の過失の程度を考えれば、原告らに生じた相当損害額のうち、過失相殺により賠償額から除き得るものはさほど大ではあり得ない。
(五) 以上のとおりであるから、被告は、自賠法三条本文に基き、本件事故による原告佐太郎の受傷により原告らの蒙つた損害を賠償すべき義務がある。ところで、(四)の観点に立つて、事故発生の状況を綜合検討し、右損害のうち被告の賠償すべき範囲はその八五%とするのが相当である。 (高山晨)